大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和43年(行ウ)739号 判決

大阪市住之江区東加賀屋三丁目六の五

原告

小門繁雄

右訴訟代理人弁護士

松井清志

片山善夫

豊川正明

鈴木康隆

梅田満

正森成二

大阪市住吉区上住吉町一八一

被告

住吉税務署長 板元亮

大阪市東区大手前之町

被告

大阪国税局長 徳田博美

右両名指定代理人

大蔵事務官 山田俊郎

山本喜文

東京都千代田区霞ケ関一丁目一番

被告

右代表者法務大臣

稲葉修

右三名訴訟代理人弁護士

上原洋允

右三名指定代理人

検事 宗宮英俊

法務事務官

秋本靖

大蔵事務官

大槻福治

山下功

川崎一

右当事者間の更正処分取消等請求事件につき、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

1. 被告住吉税務署長が原告に対し昭和四一年七月一九日にした原告の昭和三八年分所得税の総所得金額を四七万七、四八七円(但し、審査請求に対する被告大阪国税局長の裁決によって一部取消がなされた後のもの。)と決定した処分のうち三七万四、九五〇円を超える部分を取消す。

2. 原告の被告住吉税務署長に対するその余の請求および被告大阪国税局長、同国に対する請求をいずれも棄却する。

3. 訴訟費用中、原告と被告住吉税務署長との間に生じたものはこれを一〇分し、その一を被告住吉税務署長の負担とし、その余を原告の負担とし、原告と被告大阪国税局長および被告国との間に生じたものは全部原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1. 被告住吉税務署長が原告に対し昭和四一年七月一九日にした原告の昭和三八年分所得税の総所得金額を四七万七、四八七円と決定した処分、昭和三九年分所得税の総所得金額を五五万七、一一五円と決定した処分の全部および昭和四〇年分所得税の総所得金額を六四万二四二円と更正した処分(但し、各金額はいずれも審査請求に対する被告大阪国税局長の裁決によって一部取消がなされた後のもの。)のうち二四万円を超える部分をいずれも取消す。

2. 被告大阪国税局長が原告に対し昭和四三年四月二七日にした右各決定および更正処分に対する審査請求を棄却した裁決をいずれも取消す。

3. 被告国は原告に対し五万円ならびにこれに対する昭和四三年一〇月二三日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

4. 訴訟費用は被告の負担とする。

5. 第3項につき仮執行宣言。

二、請求の趣旨に対する答弁

1. 原告の請求をいずれも棄却する。

2. 訴訟費用は原告の負担とする。

3. 担保を条件とする仮執行免脱宣言。

第二、当事者の主張

一、請求原因

(被告住吉税務署長に対し)

1. 原告は、酒類の小売業を営む者であって、大阪市住吉区内の零細商工業者が自らの生活と営業を守ることを目的として組織した住吉商工会ならびに大阪府下の各商工会が結集した大阪商工団体連合会の会員であるが、昭和三八年分および昭和三九年分の所得税については確定申告をせず、昭和四〇年分の所得税については昭和四一年三月一四日被告住吉税務署長に対し総所得金額を二四万円として白色申告書による確定申告をしたところ、被告住吉税務署長は、昭和四一年七月一九日付で総所得金額を昭和三八年分につき六三万一、一〇四円、昭和三九年分につき七七万九、〇七〇円と各決定し、昭和四〇年分につき七五万九、一九一円と更正し、昭和四一年七月二〇日原告に通知した。

2. 原告は、同年八月六日被告住吉税務署長に対して右各決定および更正につき異議申立をしたが、同年一〇月二五日いずれの申立も棄却され、同月二六日その旨通知を受けたので、同年一一月一六日被告大阪国税局長に対して審査請求をしたところ、昭和四三年四月二七日付で総所得金額を昭和三八年分につき四七万七、四八七円、昭和三九年分につき五五万七、一一五円、昭和四〇年分につき六四万〇、二四二円とする一部取消の裁決がなされ、その裁決は昭和四三年四月二七日原告に送達された。

3. しかしながら、被告住吉税務署長のした各決定および更正処分にはいずれも原告の所得金額を過大に認定した違法がある。また、右各決定および更正処分は理由の記載を欠き、処分を行なうに当っては原告が商工会員である故をもって他の納税者とは差別して不当な税務調査を行ない、商工会の弱体化を企図してなされたものであるから違法である。

(被告国に対し)

4. 被告国は次の理由により、原告に対してその損害を賠償する義務がある。

即ち、原告は、前記のとおり昭和四一年一一月一六日被告大阪国税局長に対し、各決定および更正処分の取消を求めて審査請求をしたが、同被告は、これを一年余放置したので、同被告を相手方として昭和四三年二月二一日審査請求に対する不作為違法確認の訴を大阪地方裁判所に提起したところ(同庁昭和四三年(行ウ)第三三二号)、右訴提起後僅か二ケ月後である同年四月二七日同被告は、前記の如き裁決をした。

審査に必要な期間は通常六ケ月、長くとも一年あれば十分であって、右経過に照らしても同被告は、故意に裁決を遅延せしめたというのほかなく、原告は、速やかに行政救済を受ける権利(行政不服審査法一条)を侵害された。

この損害は、被告大阪国税局長の裁決遅延という公権力の行使に基づくものであるから、被告国が国家賠償法一条によりその賠償の責を負うべく、その金額は五万円を下らない。

5. よって、原告は被告らに対し、請求の趣旨記載の如き判決を求める。

二、請求原因に対する被告らの認否および主張

(認否)

1. 請求原因第1項の事実のうち、原告がその主張のような住吉商工会および大阪商工団体連合会の会員であることは不知、その余の事実は認める。

2. 同第2項の事実は認める。

3. 同第3項の事実は否認する。

4. 同第4項の事実のうち、原告が審査請求をし、被告大阪国税局長が裁決をしたことおよび原告がその主張の如き訴を大阪地方裁判所に提起したことは認めるが、その余の事実は否認する。

(主張)

1. 各決定および更正に至る経緯

(一) 被告住吉税務署長の部下職員は、原告の係争各年分の所得税調査のため昭和四一年五月一〇日原告方店舗に赴き、所得金額算出の根拠となる事実に関する帳簿書類等の提示を求めたところ、売上金額、仕入金額および経費に関する記帳はなされていなかったので、実額によりその所得金額を算定することはできなかったが、納品書、請求書、経費関係領収書の提示を受けたので、これら書類を検討して、推計により係争各年分の所得金額を算出し、各決定および更正を行なった。

(二) 右各決定および更正に対し、原告から異議の申立があったので、被告住吉税務署長は、その審理のため昭和四一年九月二九日部下職員を再度原告方店舗に赴かせ、新たに売上記録表、仕入記録表、たな卸表の提示を受けてこれらを検討したが、係争各年分とも原処分に誤りが認められなかったので右申立を棄却した。しかし、その後原告から被告大阪国税局長に対する審査請求があり、その審理を担当した協議官が、昭和四二年二月六日原告方店舗に赴き、原告の意見を聴取し、前記書類等を調査検討した結果、原処分に誤りがあると認めたので、係争各年分のすべてについてその一部を取消す旨の裁決をしたのである。

2. 原告の係争各年分の所得金額は以下のとおりである。

(一) 昭和三八年分

(1) 収入金額 五〇七万一、八八三円

原告の後記販売原価を、原告と同種の事業を営む別表1の類似同業者一七名の原価率(収入金額に対する販売原価の割合)の平均値八七・六九パーセント(一から平均差益率〇・一二三一を控除した数値)で除したものである。

(2) 販売原価 四四四万七、五三五円

右金額は昭和三八年中の仕入金額であるが、期首および期末たな卸額が明らかでないので、これをもって販売原価と推定した。

(3) 一般経費 九万四、五一八円

(4) 雑収入金額 九万二、二五五円

右は仕入先からのリベートであり、その内訳は別表2のとおり。

(5) 特別経費 三万七、五八〇円

よって、右(1)の金額から(2)(3)(5)の各金額を差引き、(4)の金額を加えた五八万四、五〇五円が原告の昭和三八年分の所得金額である。

(二) 昭和三九年分

(1) 収入金額 七九九万〇、二七九円

原告の後記販売原価を、原告と同種の事業を営む別表1の類似同業者一七名の原価率の平均値八七・六一パーセントで除したものである。

(2) 販売原価 七〇〇万〇、二八四円

右金額は昭和三九年中の仕入金額であるが、期首、たな卸額が明らかでないので、これをもって販売原価と推定した。

(3) 一般経費 一一万一、〇九六円

(4) 雑収入金額 一五万一、〇六〇円

右は仕入先からのリベートであり、その内訳は別表2のとおり。

(5) 特別経費 一〇万〇、七三〇円

よって、右(1)の金額から(2)(3)(5)の各金額を差引き、(4)の金額を加えた九二万九、二二九円が原告の昭和三九年分の所得金額である。

(三) 昭和四〇年分

(1) 収入金額 八四〇万七、二九八円

原告の後記販売原価を、原告と同種の事業を営む別表1の類似同業者一七名の原価率の平均値八七・五六パーセントで除したものである。

(2) 販売原価 七三六万一、四三一円

(ア) 期首たな卸額 五九万七、一三九円

(イ) 仕入金額 七三〇万九、一八四円

(ウ) 期末たな卸額 五四万四、八九二円

(3) 一般経費 一二万二、二〇一円

(4) 雑収入金額 一九万八、五五四円

右は仕入先からのリベートであり、その内訳は別表2のとおり。

(5) 特別経費 三万七、五八〇円

よって、右(1)の金額から(2)(3)(5)の各金額を差引き、(4)の金額を加えた一〇八万四、六四〇円が原告の昭和四〇年分の所得金額である。

3. 右仕入金額はいずれも仕入値引、空瓶代を差引く前のものであり、値引、空瓶代の仕入金額に対する割合は六・四パーセント程度である。

なお、一般に酒類販売業においては値引き販売をしているのが実情であるから、たとえ原告が値引き販売をしていたとしても、これに対し同業者の原価率を適用することは合理性を失なうものではない。

三、被告らの主張に対する原告の認否

1. 被告らの主張第1項(一)(二)の事実は認める。住吉税務署係官は、原告が零細小売業者であることから、昭和三六年ないし昭和三九年分の所得税につきその申告は不要である旨述べていたのに、昭和四〇年分の所得税について突如商工会加入商人に対する一斉調査の一環として、原告に対しても不当調査を行なったものである。

2. 同第2項の事実のうち、(一)ないし(三)の各(1)収入金額は否認し、同各(2)の仕入金額、(三)の(2)の期首および期末たな卸額、(一)ないし(三)の各(3)一般経費、同各(5)特別経費の金額はいずれも認める。

同各(4)雑収入金額については、(株)大阪屋(商)の分は認め、その余は否認する。

3. 同第3項の主張については、原告は、肩書地において約三坪の店舗を構え、昭和一〇年から営業してきたが、昭和三五年ころから、配達はせず、掛売りもしない方針をとり、その代わり全商品について仕入値の約一割を定価から値引きして販売してきた。従って、原告の場合、仕入金額に比較して売上金額が低くなるから、同業者の原価率を原告に単純に適用するのは誤りである。

なお、被告らは、本訴における証人調べに入る直前の段階で推計の方法を変更したが、これは時機に後れた攻撃の方法であって、訴訟の完結を遅延させるものであるから、却下されるべきである。

4. 原告の係争各年分の所得金額は以下のとおりである。

(一)  昭和三八年分

(1) 収入金額 四五二万二、三四九円

(2) 販売原価 四一〇万一、七七一円

仕入金額四四四万七、五三五円より、仕入先からのリベート九万二、二五五円および空瓶代二五万三、五〇九円を差引いたものである。

(3) 一般経費 九万四、五一八円

(4) 特別経費 三万七、五八〇円

(5) 所得金額 二八万七、四八〇円

(二)  昭和三九年分

(1) 収入金額 七一一万一、五八五円

(2) 販売原価 六四五万〇、二〇八円

仕入金額七〇〇万〇、二八四円より、仕入先からのリベート一五万一、〇六〇円および空瓶代三九万九、〇一六円を差引いたものである。

(3) 一般経費 一一万一、〇九六円

(4) 特別経費 一〇万〇、七三〇円

(5) 所得金額 四四万九、五五一円

(三)  昭和四〇年分

(1) 収入金額 七四七万三、五七八円

(2) 販売原価 六七七万九、六三一円

(ア) 期首たな卸額 五九万七、一三九円

(イ) 仕入金額 六七二万七、三八四円

ただし仕入金額七三〇万九、一八四円より、仕入先からのリベート一二万四、一一五円、空瓶代四一万七、二三六円、値引三万九、九四九円を差引いたものである。

(ウ) 期末たな卸額 五四万四、八九二円

(3) 一般経費 一二万二、二〇一円

(4) 特別経費 三万七、五八〇円

(5) 貸倒れ金 五万三、一六七円

(6) 所得金額 四八万〇、九九九円

第三、証拠

一、原告

1. 甲第一号証の一ないし三、第二、第三号証、第四ないし第七号証の各一ないし三、第八ないし第一三号証

2. 証人安武勇、原告本人

3. 乙第四、第八号証の成立は認め、その余の乙号各証の成立は不知。

二、被告

1. 乙第一、第二号証の各一ないし三、第三号証の一、二、第四ないし第八号証

2. 証人久下幸男

3. 甲第一一、第一二号証の成立は不知、その余の甲号各証の成立は認める。

理由

一、被告住吉税務署長に対する請求について。

1. 請求原因第1項、第2項の事実(但し、第1項の事実のうち、原告が住吉商工会および大阪商工団体連合会の会員であることを除く。)は当事者間に争いがない。

2. そこで、各決定および更正の適否について判断する。

(一)  手続上の適否について

被告らの主張第1項に記載した本件各決定および更正に至る経緯は、当事者間に争いがない。

被告住吉税務署長が、原告が商工会員である故をもって他の納税者とは差別して不当な税務調査を行なったとの原告の主張ならびに本件各決定および更正が商工会の弱体化を企図してなされたものであるとの原告の主張については、いずれも本件全証拠によるもこれを認めることができず、また、本件各決定および更正通知書に理由を附記していないとの点については、本件はいわゆる白色申告に係る事案であって、この場合更正等に際しその理由を附記しなければならないとの規定は存在せず、理由の記載を欠いたからといって直ちに本件各決定および更正が違法となるものではない。

(二)  実体上の適否について

(1)  まず係争各年の販売原価について検討する。

昭和三八年ないし四〇年の各仕入金額、昭和四〇年の期首および期末たな卸額は、当事者間に争いがない。そして昭和三八年の期首および期末(昭和三九年の期首)たな卸額を明らかにする証拠はないが、弁論の全趣旨によれば、昭和三八年および三九年の各期首および期末たな卸額にはさしたる相違がなかったことが窺われる。また被告らは原告が仕入金額に対し六・四パーセント程度の金額の空瓶代、値引を仕入先から受けていたと主張するから、原告の主張する金額の空瓶代、値引があったものとする。そうすると、係争各年の販売原価は、昭和三八年が四一九万四、〇二六円、昭和三九年が六六〇万一、二六八円、昭和四〇年が六九〇万四、二四六円となる。

昭和38年 4,447,535円-253,509円=4,194,026円

昭和39年 7,000,284円-399,016円=6,601,268円

昭和40年 597,139円+7,809,184円-544,892円-417,236円-39,949円=6,904,246円

原告は右金額より原告が仕入先から支払を受けるべきリベートを差引いた金額を販売原価とし、これを収入金額(売上高)から控除して所得額を算出するが、これは被告らの如く、リベートを雑収入とし、これと収入金額(売上高)との合計額からリベート差引前の販売原価を控除して所得額を算出するのと実質的に差異はない。本件においては、次に述べるように、同業者の原価率を利用して原告の収入金額(売上高)を推計することになるところ、その原価率算定の基礎となっている販売原価はリベート差引前のそれであるから、これと同じ取扱をすることにする。

(2)  次に収入金額について考察する。

被告らの主張第1項の事実によれば、原告の収入金額は推計により算定するほかない。

被告は、原告の販売原価を基礎としてこれに原告と同種の事業を営む類似同業者一七名の原価率の平均値を適用し、原告の収入金額を推計するので、この点につき検討するに、その方式および趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第六、第七号証および弁論の全趣旨によれば、推計するにつき選定された同業者は、原告の住所がある住吉税務署管内に納税地を有し、係争各年を通じて継続して酒類小売業を営む個人事業者のうち、青色申告書を提出している者一七名の全部であること、リベートを別にすると、その収入金額、販売原価は別表1のとおりであると認められるのであり、本件の業種を考慮し、右選定された業者の件数および係争各年を通じて、その原価率の最も大きいものと最も小さいものとの差がたかだか六パーセントにとどまることなどを併せ考えれば、右数値を参考にして原告の収入金額を推計することには、合理性があるというべきである。

ところで、原告本人尋問の結果によると、原告は酒類小売業者の多くと同様酒類のほかソース、罐詰等の雑品も販売していたことが認められる。そして弁論の全趣旨によると、右雑品はいわゆる定価を割引いて販売されることが少くないが、酒類は一般に外国製品を別として割引販売をしない商品の一種であると認められるところ、証人安武勇の証言および原告本人尋問の結果によれば、原告は、係争各年を通じて、雑品のほか酒類についても若干の割引販売をしていたものと認められる。しかし、その結果何ほどの利益が残るかについては、原告本人尋問の結果によっても必ずしも明確ではないが、右結果によるとおおよそ収入金額の五分ないし一割の利益があるものと認められるのであり、一方、成立に争いのない甲第八号証、乙第四号証によれば、原告の事業に係る昭和四〇年分の損益計算に当り、原告自身売上(収入)金額を七四七万三、五七八円、原価を六七八万九、九五五円としてその原価率を約九〇・八五パーセントと計算している(原告主張のリベート額一二万四、一一五円を右原価に加えて計算すると、原価率は約九二・五一パーセントとなる)ので、これらの事情と前記同業者の原価率の平均値(昭和三八年八七・六九パーセント、昭和三九年八七・六一パーセント、昭和四〇年八七・五六パーセント)とを考え併せれば、原告の場合、係争各年を通じて、業態に格別の変化があったとも窺えないから、その原価率を九一パーセントとして推計するのが妥当である。

これにより原告の係争各年の収入金額を算出すれば、昭和三八年四六〇万八、八一九円、昭和三九年七二五万四、一四〇円、昭和四〇年七五八万七、〇八三円となる。

(3)  昭和三八年、三九年に、原告が仕入先から被告ら主張の金額のリベートを得ていることは当事者間に争いがない。

また、証人久下幸男の証言により真正に成立したと認められる乙第一、第二号証の各一ないし三によれば、昭和四〇年に原告は仕入先から別表2の最下段記載のとおりのリベートを得たことが認められる。

(4)  一般経費および特別経費については、貸倒れ金を除き、当事者間に争いがない。

(5)  以上によると、原告の係争各年分の所得金額は次のとおりになる。

(ア) 昭和三八年分

収入金額 四六〇万八、八一九円

販売原価 四一九万四、〇二六円

一般経費 九万四、五一八円

雑収入金額 九万二、二五五円

特別経費 三万七、五八〇円

所得金額 三七万四、九五〇円

(イ) 昭和三九年分

収入金額 七二五万四、一四〇円

販売原価 六六〇万一、二六八円

一般経費 一一万一、〇九六円

雑収入金額 一五万一、〇六〇円

特別経費 一〇万〇、七三〇円

所得金額 五九万二、一〇六円

(ウ) 昭和四〇年分

収入金額 七五八万七、〇八三円

販売原価 六九〇万四、二四六円

一般経費 一二万二、二〇一円

雑収入金額 一九万八、五五四円

特別経費 三万七、五八〇円

所得金額 七二万一、六一〇円

いま原告主張のとおりの貸倒れ金があり、これを必要経費に計上することにすると、昭和四〇年分の所得金額は六六万八、四四三円となる。

(6)  そうすると、昭和三八年分の所得税について被告住吉税務署長のした決定は総所得金額三七万四、九五〇円を超える部分につき違法であるから取消しを免れず、昭和三九年分および昭和四〇年分については右計算による結果が被告住吉税務署長のした決定(昭和三九年分)或いは更正(昭和四〇年分)の総所得金額(但し、いずれも裁決による一部取消後のもの。)を上廻るから、前記貸倒れ金計上の当否について判断するまでもなく、右決定および更正は正当というべきである。

なお、本件訴訟の経過に鑑みれば、同業者一七名の原価率等についての被告の主張が故意又は重大な過失によって時機に後れ、これによって訴訟の完結を遅延させるものとは認められない。

二、被告大阪国税局長および被告国に対する請求について

被告大阪国税局長に対する請求について、原告はその請求原因を主張・立証しないから棄却するほかなく、被告国に対する請求については本件全証拠を検討しても、被告大阪国税局長が故意に裁決を遅延させ、原告の権利を侵害した旨の主張を裏付けるに足る資料を見出すことができないから、同じく棄却するほかない。

三、結論

よって、原告の請求は、昭和三八年分の所得税について被告住吉税務署長のした決定のうち総所得金額三七万四、九五〇円を超える部分の取消を求める限度において正当であるからこれを認容し、その余の請求はすべて理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石川恭 裁判官 増井和男 裁判官 若原正樹)

別表1

〈省略〉

別表2

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例